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盛岡地方裁判所宮古支部 平成5年(モ)9号 決定

申立人

甲野花子

昭和三九年××月××日生

主文

本件免責を許可しない。

理由

申立人は、債権者二〇名に対し合計約七〇三万円の債務を負担し支払不能の状態にあるとして、平成五年二月一九日当裁判所から破産宣告を受け、続いて本件申立てをなした者であるが、右債務の形成過程についてみると、一件記録によれば、申立人は、昭和六〇年に未だ二〇歳になったばかりであり美容師として稼働し独身寮に入ってようやく自己の収入により生計を保つ状態であったにもかかわらず、自己の収支を顧みることなく、一〇〇万円の和服をクレジットを利用して購入したのを初めとして、やはりクレジットを利用して指輪数点合計約一〇〇万円、コート二着合計三〇万円近く等主に自己の衣服や装飾品を購入し、それがため自己の収入では返済不能な債務を作り、以後自転車操業的な借り増しを続けて現在の債務を負担するに至ったことが認められる。以上によれば、本件には、破産法三六六条ノ九第一号、三七五条一号(浪費)の免責不許可事由があるというべきである。

ところで、支払不能の状態にある債務者は、破産法による免責を得ずとも、民事執行法の差押禁止財産の規定により保護されているから、その無資力の間は債権者からの強制執行といえども何の効果とてなく、その効果が現れるのはその資力が回復した暁である。免責許可の実益は、債務者が自己の資力が回復したにもかかわらずなお全債務を踏み倒したままでいることができる点にある。しかし、いかに債務者保護の理念を強調してもここまでするのは、その必要性はほとんどないというべきである。従って、免責は、社会全体における債務者一般の債務履行の意欲を高めるべく、破産者の鏡ともいうべき誠実な者を表彰する趣旨で多くの破産者の中から選りすぐった少数の者を許可する限度でその運用を律すべきである。免責を誠実な破産者に対する特典ととらえる最高裁判所大法廷昭和三六年一二月一三日決定民集一五巻一一号二八〇三頁及び同第三小法廷平成三年二月二一日決定集民一六二号一一七頁は、右の解釈に強力な裏付けを与えるものである。

これについて本件を見るに、先に認定した債務の形成過程における浪費の程度に照らし右に定義した誠実さは認められないから、裁量による許可の対象とはなしえない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官井上薫)

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